ことばのパレット

「いい色でしょ」 「その色がどうしたの?」 「うん、この色を生かしたいと思って」 詩を読んでいて、ふと美術の時間のことを思い出した。ある人が画用紙を前にしてじっと動かないので、つい「どうしたの?」と声をかけてしまったやりとりのことだ。 彼女は…

あなたの詩をよみたいです。

と言われて、驚き戦いた。 なぜだろうかと言えば、それはその言葉の連なり自体が詩的で、お願いであると同時にプレゼントであるからだ、と思ったのだけれど、どうだろうか。 文章を書けばそのドキドキを少しは鎮めることが出来るかと思って、今文章を書いて…

気まぐれに好きな詩を載せる 「婦人と雨」

婦人と雨 しとしとと降る雨の中を、かすかに匂つてゐる菜種のやうで、げにやさしくも濃やかな情緒がそこにはある。ああ婦人!婦人の側らに座ってゐるとき、私の思惟は湿ほひにぬれ、胸はなまめかしい香水の匂ひにひたる。げに婦人は生活の窓にふる雨のやうな…

気まぐれに好きな詩を載せる 「読書する人」

読書する人 誰が知ろう 彼のことを その顔をこの現実からそむけて 第二の現実に沈めているこの男のことを ただ 豊かな頁が素早くめくられるときにだけ その現実は時おり激しく中断される 母親でさえもが確かではないだろう そこで自分の陰影にひたっているも…

気まぐれに好きな詩を載せる 「昔と今」「生の道」

昔と今 若い日々には 朝は心楽しく 夕べとなれば涙にくれた。年を重ねた今は 疑い惑いながら一日を始めるのだが その終わりは 浄らかさに満ち晴れやかだ。 生の道 たかぶり勢う精神。巧みにそれを引き下ろす 愛。あらけなく押しひしぐ苦悩。 こうして私は一…

気まぐれに好きな詩を載せる 「詩の好きな人もいる」

詩の好きな人もいる そういう人もいる つまり、みんなではない みんなの中の大多数ではなく、むしろ少数派 無理やりそれを押し付ける学校や それを書くご当人は勘定に入れなければ そういう人はたぶん、千人に二人くらい 好きといってもー 人はマカロニスー…

気まぐれに好きな詩を載せる 「もらい物は何もない」

もらい物は何もない もらい物は何もない、すべては借り物 借金で首が回らないほどだ 自分の代金を 自分の身で支払い 命の支払いに命を投げ出すことになるだろう もうそういうことになっていて 心臓も返さなければならないし 肝臓も返さなければならない 指だ…

気まぐれに好きな詩を載せる 「無垢の予兆」

無垢の予兆 一粒の砂に世界を 一輪の野花に天国を見、 君の掌のうちに無限を 一時のうちに永遠を握る。

気まぐれに好きな詩を載せる 「あなたはだんだんきれいになる」

あなたはだんだんきれいになる をんなが附属品をだんだん棄てると どうしてこんなにきれいになるのか。 年で洗はらたあなたのからだは 無辺際を飛ぶ天の金属。 見えも外聞もてんで歯のたたない 中身ばかりの整列な生きものが 生きて動いてさつさつと意慾する…

気まぐれに好きな詩を載せる 「人間と海」

人間と海 自由な人よ、君は常に海をいとおしむだろう! 海は君の鏡、波の無限に揺れやまない繰り返しに、 君は自らの魂を映すだろう、 そして君の精神も、その苦さは深淵に劣ることはない。 君は好んで自らの影像に身を沈めるだろう。 両の眼と、両の腕とで…

気まぐれに好きな詩を載せる 「マリー・Aの思い出」

マリー・Aの思い出 九月はあおい月、その月のあの日に ひっそりと、若いスモモの木の根もとに あの子を、蒼いひっそりしたこいびとを ぼくは抱いた、優しいゆめを抱くように。 ぼくらの上のすみきった夏空に ひとひらの雲がぽっかりと浮かんでいた 気の遠く…

気まぐれに好きな詩を載せる 「一目惚れ」

一目惚れ 突然の感情によって結ばれたと 二人とも信じ込んでいる そう確信できることは美しい でも確信できないことはもっと美しい 以前知りあっていなかった以上 二人の間には何もなかったはず、というわけ それでもひょっとしたら、通りや、階段や、廊下で…

詩について考えたこと

詩が好きです。 昨日、ボルヘスのつながりで詩を読んでいて、思うことがあったので書いてみることにした。 詩とはなんだろうか。その問いに、ひとつの言葉が出てきた。 詩とは、天使の思考の足跡である。 この言葉を説明するにあたって、ウィトゲンシュタイ…