俳句

風吹いて響く冷たさ冬の朝

風吹いて響く冷たさ冬の朝 ー冬の朝 やっと明けても夜の寒さがそのまま残っている冬の朝である。

寒波来てみなの口もと白き花

寒波来てみなの口もと白き花 ー寒波 日本付近を西から東へ低気圧が通り抜けたあと、大陸からの寒気団がもたらす厳しい寒さ。

寒波来て耳のかたちをしかと知る

寒波来て耳のかたちをしかと知る ー寒波 日本付近を西から東へ低気圧が通り抜けたあと、大陸からの寒気団がもたらす厳しい寒さ。 寒波くるや山脈波璃の如く澄む 内藤吐天

冬深く触覚伸ばす車かな

冬深く触覚伸ばす車かな ー冬深し 一年で寒さの最も極まる時期のこと。積もった雪や北風に吹かれる枯れ草、防寒着に身を包む人々など、どこを見ても冬真っ盛り。春が待たれる日々である。 冬深し柱の中の濤の音 長谷川櫂

くしゃみして触れる温度差身と心

くしゃみして触れる温度差身と心 ー嚔 鼻の粘膜が刺激されて出る。嚔の際に発する音がそのまま名前となったとも言われる。

声の跡交わるくぼみ朝の雪

声の跡交わるくぼみ朝の雪 ー雪 水蒸気を多量に含んだ空気が上昇し、上空で冷却され、昇華され、結晶となり、雪となって降ってくる。昔から月雪花とたたえられ、雪は冬を象徴し美しい景観を呈する。地方によって降雪量の差が大きく、その趣も生活への影響も…

窓の外闇に融けゆくむつのはな

窓の外闇に融けゆくむつのはな ー雪 水蒸気を多量に含んだ空気が上昇し、上空で冷却され、昇華され、結晶となり、雪となって降ってくる。昔から月雪花とたたえられ、雪は冬を象徴し美しい景観を呈する。 六花。牡丹雪。小米雪。粉雪。綿雪。雪空。 下京や雪…

泣く赤子だまる雨音寒の内

泣く赤子だまる雨音寒の内 ー寒の内 寒の入から寒明までの約三十日間のこと。寒稽古をはじめいろいろな行事がある。 乾鮭も空也の痩も寒の内 芭蕉

冬電車はこびし視線雨こえる

冬電車はこびし視線雨こえる ー冬 立冬(十一月七、八日ごろ)から立春(二月四、五日ごろ)の前日までをいう。 鉄板を踏めば叫ぶや冬の溝 高濱虚子

冬の朝世界つくりし君の声

冬の朝世界つくりし君の声 ー冬の朝 やっと明けても夜の寒さがそのまま残っている冬の朝である。 オリオンのかたむき消えぬ冬の朝 稲畑汀子

屋根の猫雲間ながれて冬日向

屋根の猫雲間ながれて冬日向 ー冬日向 冬の一日と冬の太陽の両方の意味で使われる。歳時記によっては「冬の日」「冬日」と別立てのものもある。冬は日照時間が短く、すぐに暮れてしまう。それだけに昼間の日差しをいっぱいに浴びたいという思いがこもる。雪…

湯にふれて握るつめたさ冬の暮

湯にふれて握るつめたさ冬の暮 ー冬の暮 冬の夕暮れ。日没とともに一気に冷え込み、早い時間からあちこちに明かりが灯る。寒々とした情景であるが、どことなく生活感が漂う。

冴ゆる夜上げるファスナー踏むひかり

冴ゆる夜上げるファスナー踏むひかり ー冴ゆる夜 寒さが厳しく、あらゆるものに透き通ったような、凜とした、冷たさを感じること 。 風さえて今朝よりも又山近し 暁台

凍空の暗きに浮かぶ白き爪

凍空の暗きに浮かぶ白き爪 ー冬の空 本州を縦断する山脈の影響で、太平洋側は冷たい青空の日が多いのに対し、日本海側は厚い雪雲に覆われる日が多い。 冬空の水より深き朝かな 青木月斗

故郷きて変わらぬ姿寒昴

故郷きて変わらぬ姿寒昴 ー寒昴 冬の夜空に冴え渡る星は美しいが、特に牡牛座に属するスバル星の輝きは印象深い。「すばる」はもともと日本語で星が集まってひとつになるという意味。

冬田暮れあかり運びし電車かな

冬田暮れあかり運びし電車かな ー冬田 稲を刈り取ったあと、切株も黒くなって荒寥とした田をいう。 雨水も赤くさび行冬田かな 太祗

冬景色光を添える白の月

冬景色光を添える白の月 ー冬景色 草も木も枯れはてた冬の景色である。枯木ばかりの山や、草が枯れ伏した野原など寂寞としたものがある。 夕暮を惜む隙なし冬げしき 支考

雲とけて影を薄める冬茜

雲とけて影を薄める冬茜 ー冬茜 単に「夕焼」といえば夏の季語だが、「冬の夕焼」「春の夕焼」「秋の夕焼」と一年中季語としてある。冬の夕焼は、枯木立や建物のコントラストが美しく、束の間ではあるが印象深い。類題に「寒夕焼」「寒茜」もあるが、冬の夕…

空は布きらめく川面冬の朝

空は布きらめく川面冬の朝 ー冬の朝 やっと明けても夜の寒さがそのまま残っている冬の朝である。 五時はまだ星の綺麗置く冬の朝 稲畑汀子

影の層たすは足跡冬木立

影の層たすは足跡冬木立 ー冬木立 冬木の立ち並んでいるものをいう。 砂よけや蜑のかたへの冬木立 凡兆

赤い凧風を孕むも眠りし子

赤い凧風を孕むも眠りし子 ー凧 本来凧は子供に遊びというよりは、地区対抗の競技で相手の糸に絡ませて切り合う凧合戦が行われた。ことに四月の長崎の凧揚げは有名である。紙鳶。鳳巾。いかのぼり。いか。はた。奴凧。 凧かけてさびしき夜の柱かな 土朗

ビルと影切れ目あらはす冬の朝

ビルと影切れ目あらはす冬の朝 ー冬の朝 やっと明けても夜の寒さがそのまま残っている冬の朝である。 烏ばかり静かにならぬ冬の朝 曾良

垂れて音流しの水面冬の水

垂れて音流しの水面冬の水 ー冬の水 秋に澄み渡った水は、寒さが増してくるにしたがいより磨きがかかり、研ぎ澄まされていく。暖かい時分の水は、生命の輝きを放っているが、冬のそれは命を脅かす厳しさを持っている。それゆえに、心身を清める神聖な力を感…

裸眼夜みずたま光帰り花

裸眼夜みずたま光帰り花 ー帰り花 桜、梨、山吹、躑躅、蒲公英などが、初冬の小春日和のころに時ならぬ花を開くのをいう。単に帰り花といえば桜のことで、他の花はその名を補いなどして感じを出す。忘れ咲。狂ひ花。狂ひ咲。帰り咲。 明るさやどこかにきつと…

夜の街滲むオレンジ冬の雨

夜の街滲むオレンジ冬の雨 ー冬の雨 冬の雨は大雨にはならないが、寒くて小暗い。雨音も静かで、いつの間にか雪になっていたりする。 宵やみのすぐれて暗し冬の雨 太祇

冬の朝

冬の朝走る足音来る電車 ー冬の朝 やっと明けても夜の寒さがそのまま残っている冬の朝である。 オリオンのかたむき消えぬ冬の朝 稲畑汀子

凍星

夜の底凍星ひとつはるか見る ー凍星 冬に見る星は、空気が澄んでいるので冴え冴えとしている。北斗七星やオリオン座など、星座の形をくっきりと見ることができる。 凍て星の水にも落ちてまたたかず 五百木飄亭

寒風

寒風に足裏固し砂利の道 ー寒風 冬に吹く風。北風、北西の風が多い。日本海側に雪、太平洋側に乾燥をもたらす風である。

冬木立ち

冬木立ち枝は遠目に絡まりぬ ー寒林 冬の樹木「冬木」が群立しているさまをいう。落葉樹も常緑樹も冬木ではあるが、葉を落とした冬枯れの裸木の木立は、鬱蒼と茂る夏木立と対照的にものさびしいものである。 斧入れて香におどろくや冬木立 蕪村

冬景色

冬景色蛇口のしずく樹々濡らす ー冬景色 草も木も枯れはてた冬の景色である。枯木ばかりの山や、草が枯れ伏した野原など寂寞としたものがある。 夕暮を惜む隙なし冬げしき 支考