俳句

冬至

電波塔夕焼け眺む冬至かな ー冬至 二十四節気の一つ。十二月二十二日ごろにあたり、一年中で昼がもっとも短く、夜がもっとも長い日である。この日を境にして日脚が伸び始める。冬至粥。 あたたかき雨の降りたる冬至かな 俊朱

葱の青革のカバンに運ばるる ー葱 日本では古くからいたる所で栽培され、もっとも庶民的な冬野菜の一つ。関東では根を深く作るので根深ともいう。ひともじ。 ひともじの北へ枯臥古葉かな 与謝蕪村

冬枯

冬枯て山は境目新調す ー冬枯 野山の草木がすべて枯れ尽くし、枯れ一色になった風景をいう。一つの草木というより、ものみな枯れ果てた感じである。冬枯や在所の雨が横にふる

暖房

鍵開けて暖房ひとり唸りけり ー暖房 冬の寒い日、器具を使って部屋を暖めること。今日ではスチームヒーター、石油ストーブ、ガスストーブ、電気ストーブとさまざまな暖房器具が出回っている。 暖房や肩をかくさぬをとめらと 日野草城

山茶花

山茶花の枝に鎮座すビール缶 ー山茶花 椿に似て椿より淋しく、晩秋から冬にかけて咲く。品種が多く庭や垣根に植えられる。 山茶花やかなしきまでに好きになりぬ 星野立子

湯たんぽ

闇布団足元照らす湯婆かな ー湯たんぽ 中に熱湯を入れて布切れで包み、寝床の中においてからだを暖める具 寝がへりに音をあやしむ湯婆かな 嘯山

冬の海

冬の海三角座りこもる息 ー冬の海 冬の海は、波が高く、暗く荒々しい。ことに北国の海は、雪雲が覆い暗澹としている。また晴天の日でも寒々とした青さを湛えている。冬の濤。 冬海や一隻の舟難航す 高浜虚子

寄鍋

寄鍋でくもりし眼鏡隠す笑み ー寄鍋 野菜、魚介、鶏肉、その他好みの材料を取り合わせた鍋料理の一つ。何を入れてもよく、上等の品でもまた有り合わせの品でも楽しめる。 寄鍋に主客閑話や主婦多忙 星野立子

冬鴉

朝の街闇の残り火冬鴉 ー冬鴉 寒中に見る鴉をいう。ところどころ雪のある冬田の中を、鴉が餌を求めて歩く。一、二羽で現れることが多く、なんとなく哀れで親しみがわく。餌の無き、厳しい冬を生き抜く姿に惹かれるものがある。 木の如く凍てし足よな寒鴉 富…

湯気立

湯気立ちてまどろむ先に母をみる ー湯気立 部屋の乾燥を防ぐため、蒸気を発生させること。火鉢に薬罐をかけたり、市販の電気加湿器を用いたりする。風邪の予防に有効である。 湯気立てゝひそかなる夜の移りゆく 清原枴童

冬雀

水たまり広がる輪と輪冬雀 ー冬雀 雀は、田に餌がなくなる冬季は、人家近くに餌を求めて集まるので親しみやすい。 けふの糧に幸足る汝や寒雀 杉田久女

枯木立

鈍色の空にひびなす枯木立 ー枯木立 葉の落ちつくした木立のこと。寒林。 枯木立月光棒のごときかな 川端茅舎

冬の雨

窓を打つ冷たき音や冬の雨 ー冬の雨 冬の雨は大雨にはならないが、寒くて小暗い。雨音も静かで、いつの間にか雪になっていたりする。 宵やみのすぐれて暗し冬の雨 太祇

薬喰

言葉なく汗が語りし薬喰 ー薬喰 養生のため、栄養食を摂ること。古くは仏教の普及により肉食が禁止されていたが、寒中には薬と称して獣肉を食べた。鹿は美味なので特に好まれ、その鍋は紅葉の縁で紅葉鍋という。 手燈しの低き明りやくすり喰い 太祗

冬の雲

冬の雲見上げし首のほの白さ ー冬の雲 曇った日の鉛色の雲も、寒く晴れた空の雲も、冬の雲は冷たくかたく、寒そうに見える。凍雲 冬の雲割れて湖面に朝の日矢 稲畑汀子

冬の月

冬の月鍵穴ごとく漏れる輝 ー冬の月 冬の月は青白く凄惨な感じがする。真上を高く渡るので小さく見え、澄んで鋭い感じがある。 静かなる樫の木原や冬の月 蕪村

冬服

冬の服拾って触れる子の温さ ー冬服 冬期着る洋服。和服の場合は「冬着」といって区別する。 冬服を来て生意気な少年よ 星野立子

冬紅葉

水の底さわれぬ季節冬紅葉 ー冬紅葉 冬になってもなお美しく残っている紅葉。半ば散り失せて濃い紅葉が残っているのもある。残る紅葉。 なお燃ゆる色を尽して冬紅葉 稲畑汀子

隙間風

逃げ込んで部屋に隠れる隙間風 ー隙間風 壁、襖、戸などの隙間から入ってくる寒い風。 サーカスの緊張解けし隙間風 きよみ

悴む

帰宅して皆を待たせる悴む手 ー悴む 寒気のため手足が凍えて自由がきかなくなること。 悴みて人の云うこと諾かぬ気か 高浜年尾

炬燵

炬燵出て風呂に入るも頰にあと ー炬燵 切炬燵は炉を切った上に櫓を置き、炬燵蒲団を掛けてもちいる。置炬燵は炉の代わりに昔は炭、炭団、豆炭などを燃料とする小火鉢などを入れたが今は電気炬燵がほとんどである。 住つかぬ旅のこゝろや置火燵 芭蕉

冬茜

冬茜まどろみ覚めて星の裏 手元まで闇の来ている冬茜 廣瀬町子

川の岸捜査広げる鴨の群れ ー鴨 雁に少し遅れて北国から渡ってくる冬の候鳥で、湖沼や河川に群れて棲む。また雁に遅れて北国へ帰る。餌を求めに田畑へ来るのは、多く夕方から夜にかけてである。昼は水面に群れて休息し、枯真菰などのあたりで日向ぼこをして…

寒雀

木漏れ日と戯むる姿寒雀 ー寒雀 雀は、田に餌がなくなる冬季は、人家近くに餌を求めて集まるので親しみやすい 二羽となりて身細うしけり寒雀 臼田亜浪

空風

君つつみ声を連れ去る空つ風 ー空風 天気続きに吹く乾燥しきった寒風をいう。 上州の空つ風さへなく晴れて 稲畑汀子

冬の朝

頰触れて姿うしなふ朝の冬 ー冬の朝 やっと明けても夜の寒さがそのまま残っている冬の朝である。 オリオンのかたむき消えぬ冬の朝 稲畑汀子

冬の月

ビルの窓夜空の背中冬の月 ー冬の月 冬の月は青白く凄惨な感じがする。真上を高く渡るので小さく見え、澄んで鋭い感じがある。 この木戸や鎖のさゝれて冬の月 其角

白息

軒の下闇に溶けゆく白い息 ー白息 冬は気温が低く、空気が冷たいので、吐く息が白く見える。天候や時刻によって左右され、はっきり見えるときもあればそうでないときもあるが、冬らしい光景のひとつであり、冬を実感する光景である

ストーブ

ストーブでじわり暖む窓の外 ーストーブ 火を焚いて部屋を暖める器具。石炭や薪、灯油が燃料になる。煙突を必要とするものは移動できないが、石油ストーブなどはどこへでも運べて便利。 ストーブの中の炎が飛んでおり 上野泰

冬の山

冬の山ともに待ちけり赤信号 ー冬の山 草木の枯れた冬の山は遠目にも蕭条としている。雪をかぶった山は神々しいまでの静けさを感じさせる。 めぐり来る雨に音なし冬の山 蕪村