俳句

靴脱げば聞こえる嚔ぬくい家 ー嚔 鼻の粘膜が刺激されて出る。嚔の際に発する音がそのまま名前となったとも言われる。 三日月のひたとありたる嚔かな 中村草田男

湯冷め

濡れた髪受話器握る手湯冷めかな ー湯冷め 湯冷めすの動詞形でも用いる。風呂上がりに濡れた体で冷気に触れたりすると体温を奪われ、それが風邪の原因にもなる。 つぎつぎに星座のそろふ湯ざめかな 福田甲子雄

冬夕焼

枯れた木々冬の夕焼纏いけり ー冬夕焼 単に夕焼といえば夏の季語であるが、冬の夕焼にもまた、鮮やかな美しさがある。 路地染めて何をもたらす寒夕焼 菖蒲あや

毛布

朝の部屋羽織る毛布に湯気の音 ー毛布 寝具などに用いる厚地の毛織物。ひざ掛けにしたり、掛け布団の下に入れたりして寒さを防ぐ。 十年の苦学毛の無き毛布かな 正岡子規

襟巻

交差点マフラうずまり我独り ー襟巻 防寒のため襟もとを包むもの。マフラー。首巻。 襟巻の狐の顔は別にあり 高浜虚子

外套

コート脱ぎ冬の大気を降ろしけり ー外套 洋服の上に着る防寒具。オーバー。 オーバーを着せかけしのみ何も言わず 今井千鶴子

マスク

マスクこえあふれる笑顔迎ふ母 ーマスク 冬期、冷たい空気や病菌、塵埃などを防ぐため、マスクを掛けた人が目立ってくる。 マスクして我と汝でありしかな 高浜虚子

冬の川

座すふたりゆるり流れる冬の川 ー冬の川 普段水量が豊かな川も、冬の渇水期には目立って流れが細くなる。 冬川や芥の上の朝の霜 几 董

冬の雲

雨やむも天に居座る冬の雲 ー曇った日の鉛色の雲も、寒く晴れた空の雲も、冬の雲は冷たくかたく、寒そうに見える。凍雲。 明暗に山肌分けし冬の雲 杉田竹軒

冬の鳥

また会えど呼び名を知らぬ冬の鳥 ー冬の鳥 冬に見られる鳥の総称。寒禽。 寒禽の撃たれてかゝる葎かな 飯田蛇笏

手袋

手袋をぎゅっと握る手朝の駅 ー手袋 寒気から手を守るために、絹、メリヤス、皮、毛糸などで作ってはめる。皮手袋。 手袋の左許りになりにける 正岡子規

冬晴

冬晴れの空を歩きし青信号 ー冬晴 晴れ渡った日は、冬でも日差しが眩しい。太平洋側では晴れの日が続く日が多い。 冬晴れのきはみ川底まで透かす 市場基巳

冬の水

雫落ち静けさ濡らす冬の水 ー冬の水 冬の湖や池などの水は、透徹し静まり返っている。一方、蕭条とした景色のなかで滾々と湧く冬の泉は生命感を感じさせる。 冬の水すこし掬む手にさからへり 飯田蛇笏

初時雨

傘をふる右手に残る初時雨 ー初時雨 その年の冬、初めて降る時雨のこと。いよいよ冬が来たという感じが漂う。 旅人と我名よばれん初時雨 芭蕉

冬の雨

午の街ともる街灯冬の雨 冬の雨は大雨にはならないが、寒くて小暗い。雨音も静かで、いつの間にか雪になっていたりする。 俥屋の使いはしりや冬の雨 星野立子

初冬

手を洗いじんと赤らむ冬はじめ ー初冬 冬の初めで、立冬を過ぎた新暦の十一月にあたる。まだ晩秋の感じも残るが、寒さに向かう引き締まった気分を感じさせる。 初冬の音ともならず嵯峨の雨 石塚友二

立冬

今日から暦の上では冬ですね。 立冬 11月8日頃(2015年は11月8日)。および小雪までの期間。太陽黄径225度。霜降から数えて15日目頃。 立冬とは、冬の始まりのこと。「立」には新しい季節になるという意味があり、立春、立夏、立秋と並んで季節の大きな節目…

朝寒

朝寒しテレビの声に背を見せる ー朝寒 晩秋になると、朝は著しく気温が下がり、手足の冷たさを覚える。いよいよ冬の近いことが感じられる。 朝寒や花より赤き蓼の茎 内藤吐天

秋麗

秋うらら椅子にセーター昼休み ー秋麗 秋のよく晴れた日をいう。春の「麗か」にかよう、美しく輝き、 心がうっとりするような日和。 田の中に赤き鳥居や秋うらら 邊見京子

霧流れ蒼が我身へ押し寄せり ー霧 霞と現象的には同じであるが、いつからか、霞は春、霧は秋と定まった。朝霧。夕霧。夜霧。川霧。海霧(がす)。濃霧。さ霧。霧の海。霧雨。 還らざるものを霧笛の呼ぶごとし 伊藤柏翠

秋色 

トンネルの闇に映りし秋の色 ー秋色 秋景色・秋の風色のことである。和歌では、「秋の色」として使い、紅葉や黄葉などの具体的な色を念頭に置く場合が多いが、俳諧になって抽象的に使われることが多くなった。 憩う人秋色すすむ中にあり 橋本鷄二

秋湿り

日が差して窓に消えゆく秋湿り ー秋湿り 秋の雨のために空気が湿って、部屋などもしっとりと冷たい感じ。 ひとりごと言うては答ふ秋湿り 深谷雄大

秋の雲

本の上影を動かす秋の雲 ー秋の雲 澄みきった秋空に湧いては消える雲である。 とどまるもとどまらざるも秋の雲 稲畑汀子

秋の風

葉を舞わせ電車あと追う秋の風 ー秋の風 秋は西、西南の風が多い。吹くかぜに引きしまった緊張と、うつろいゆくあわれを感じる。秋の風。金風。 物言えば唇寒し秋の風 芭蕉

薄紅葉

交差点歩みをとめる薄紅葉 ー薄紅葉 まだ充分に紅葉しきらない状態をいう。まだらに色づきそめた山々もまた趣がある。 うす紅葉障子に触れむばかりにて 清原枴童

秋の虹

澄んだ空鳥と消えゆく秋の虹 ー秋の虹 秋に立つ虹のこと。夏の虹ははっきりと大空にその大輪を掛けるが、秋の虹は色が淡くすぐに消えてしまうことが多い。 秋の虹消えたるのちも仰がるる 山田弘子

鈴虫

夜の窓空籠住まう月鈴子 ー鈴虫 リーンリーンと鈴を振るように続けて鳴き、古くから美しく鳴く虫として愛されてきた。体長は十五ミリ内外、西瓜の種に似ていて、松虫より少し小さい。平安時代には「まつ虫」と呼ばれていた。 鈴虫のいつか遠のく眠りかな 阿…

秋の雨

朝の部屋眠る横顔秋の雨 ー秋の雨 蕭条と降る寂しい趣がある。秋雨。秋霖。秋黴雨(あきついり)。 秋雨は無声映画のやうに降る 仁平 勝

秋風鈴

午の雨かぜが運びし秋風鈴 ー秋風鈴 秋になっても吊られたままの風鈴。夏の涼しさを呼ぶ音と違い、寂しくうすら寒い音がする。 くろがねの秋の風鈴鳴りにけり 飯田蛇笏

鬼灯

鬼灯の熱なき明かり夜の部屋 ー鬼灯 青い六角の苞のふくろが色づいてくると中の丸い実も赤くなる。実を柔らかく揉み中の種を出し、口にふくんでギューッギューッと鳴らして遊ぶ。虫鬼灯とは袋の繊維を残して虫の食った鬼灯で、レースのように中の実が透けて…