空と飛行機雲

暮れゆく空に、飛行機雲が一本架かっている。

空の端に朱色がさされ、澄んだ青色は天頂にむけて藍から濃紺へとグラデーションになっていた。飛行機雲はちょうど色の変化の物差しのように東から西へと突っ切っていた。その雲は夕暮れという校庭に引いた線のようで、少しゆがみながら風に吹かれてかすかに滲んでいた。綺麗だと思った。

空に飛行機雲があれば思わず線の端から端まで目で追ってしまう。全体をなぞり終えても、しばらく眺めてしまうのはなぜだろうか。子どもの頃から変わっていない習慣。ふと考えてみる……それは空と人が織りなす景色だからではないかと思った。

子どもの頃、空の色を塗るのが好きだった。青、紺、藍、群青、スカイブルーとさまざまな絵具を空を見ながら大きな筆で新しい画用紙に塗っていく。雲や鳥も忘れない。けれど完成した空は作業の楽しさとは別で、いつも納得のいかないものだった。見比べながら不満気に、そのまま筆で空を塗ることが出来たらと思っていた。

飛行機雲は、子どものわたしの気分を文字通り晴らしてくれる。人が空に白い線を描く。何度空に筆をかざしても無理だった色を、空に引いてくれているのだ。

地球だけが使える広いキャンバスに、少しだけ参加する。その絵は爽快でとても綺麗だ。

 

 

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