睡蓮
池に睡蓮の葉が浮かんでいる。
近づいて見れば、睡蓮の葉は水面よりすこし低く沈んでいて、張り付いているようだと思った。水面のほとんどに葉が浮かんで、重なってもいて、その緑色は太陽の光を反射して輝いていた。
そのまぶしさに眼を逸らそうとした時、光の向こうにもう一つの世界があることに気づいた。睡蓮の浮かぶ池は、二重写しの絵だった。
池の底は浅く、泥がふわりと積もっている。そのすぐにでも崩れてしまいそうなキャンバスにいくつもの影が映されて、模様が描かれていた。
時折、風がみなもをそよがせる。葉は揺らぎに呼応して水底に気まぐれに絵を描く。その絶妙な距離感と調和に思わず息をのむ。言葉はいらない。
視界の限界がそのまま額縁となる、つまり今までで最も大きく、鮮やかな二つの静物画にしばらく見とれていた。