蝋燭

流れている曲が静かになると、店内の電灯が消えた。見わたすと、いくつかの明りが宙に浮いているのが見えた。どのテーブルの客も手と口の動きを止めて、あたりに注意を向けているのがわかった。その妙な静けさのなか、明りの群れは散りぢりになって、ひとつひとつのテーブルに着地していった。緑色だったならば蛍だと思うような曲線を描いていた。

注意は手元の明りに向けられる。ゆっくりと音もなく置かれたのは、蝋燭の暖かくて小さい灯火だった。小さいけれど、めらめらと一生懸命燃えているのがわかる。再び話し声と、食器にフォークやナイフがあたる小さな音が聞こえ始める。

店内には夜が侵入して、テーブルのまわりに漂っている。隣のテーブルはもうはっきりとは見えない。闇のなかに蝋燭の明りがつくる小さな世界で、ささやかな夕食を楽しんだ。

 

 

 

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