バラ園と少女

ウサギ穴をおりると、そこにはたくさんの薔薇が咲いていた。

もちろん、そんな魅惑的な穴はどこにもないのだけれど、一人の少女がバラ園を駆け抜けていく姿を見て、そんなことを思った。

五月の終わり、盛りを迎えたバラ園を見渡すと、敷地には深紅の花弁から淡い桃色、そして白、黄、紫、橙と色とりどりの薔薇が大人の身長ほどある茎から葉の繁みに色を添えるように咲いていた。根元のプレートには、長い名前と原産の国名が刻まれていた。来園者は花と花の間を歩きながら、時には足元の名前見て、その色を楽しんでいた。

近くから足音が聞こえる。軽快でピッチが早い、そんな音を出すのは一人しかいない。不意に足音が止まると、ボーダーのワンピースを着た女の子が現れた。髪はショートカットだ。目の前の赤い花弁に顔を近づけている。

ゆっくりと見ていると思ったら、次の瞬間には隣、その隣へと彼女は駆けていった。後ろ姿を見ながら、その低い視線と好奇心に溢れた彼女には、どんなバラ園が見えているのだろうかと思った。

もしかしたら、時計を持ったウサギを追いかけ、繁みの向こうではお茶会に参加しているのかもしれない。

 

 

 

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