川の真中

 その魅力について

 

街に暮らしていると、時おり、どうしようもなく自然に触れたくなる。直線とくすんだ色、白い光と落ち着かない音から抜け出して、人に興味のない自然のところへと。

 それでは出掛けましょうか、とコートを着るのだけれど、海や山はそれほど軽い気持ちではいけない。一日単位の行動になってしまう。そこで、いつも街のそばを流れる川に落ち着く。

 歳の暮れ、気まぐれの雪の気配を感じながら自転車にのる。大きな道に出て、西へとペダルをこぐ。手袋をしても手がかじかむ。耳が痛い。それでも信号を一つ、また一つとわたると、はやる気持ちの方がだんだんと身体を占めていく。

 市役所と商店街の通りを横切り、大きな道路の先に橋が見えると、そこが川だ。川は北から南へと街の中心部の近くを流れていて、北に上るほど川幅が広くなり、野鳥や植物を多く見かけるようになる。ランニングをしている人や楽器を演奏している人を横目に、北へ。

 二つの川が一つに合わさっているところにくる。さらに北に行く場合は、どちらかを選ばなくてはいけない。でも今日は選ばずに、自転車をおりる。橋の上を緑色のバスが走り、大きな音と一緒に水面の影が通りすぎていく。いつもの景色。

 自転車を止めて、川辺におりる。小さな水の流れる音が聞こえてくると、川底の石や草が揺れているのがわかる。ちょうど雲間から太陽が現れて、光がまぶしく反射していた。

 このまま眺めていても良かったのだけれど、川の真中へと足を進める。向こう岸へとつづく飛び石にゆっくりと足を乗せて、その半分まで行く。川の真中。橋の上で川の真中に立つことはできるけれど、ここは視点がより低い。周りに人はいなので、すわってさらに低い世界を手に入れる。澄んだ空の青を映す水の向こうに、黄色と紅の落葉が沈んでいるのが見えた。

川の真中、は様々なものを与えてくれる。例えば、餌を狙うサギの視点。岸は自らより高くて、子どもにも見下ろされる。でも、視点を川底から移動させると、それだけ空が大きく見える。

目を閉じると、川のせせらぎが溢れて、小さな風が頬をなでていく。そのままでいると、笹船になって水面に浮き、ゆっくりと流されているような心地良さがやってくる。

川の真中は、いろんな形で感覚を刺激してくれる。それは、メンテナンスのようなものだと思う。日々の生活で凝り固まった視点、感覚の反応をじんわりと解きほぐしてくれる。埃かぶった感覚には、磨いて油をさしてくれる。普段は気にしない色、音、空気、動物や植物に囲まれて、驚きがすぐそばにあることに気付く。

寒くなってきて、目を開ける。岸の方を向くと、リュックを背負った男の子が一人、木の枝を振るようにして歩いているのが見えた。その先には、水平線を境にして、綺麗な対照の風景が広がっていた。冷たい世界の川の真中もいいのだけれど、また、暖かくなってからの眺めも早くみたい、そんなことを思って川を後にした。

 

f:id:may88seiji:20111226144542j:plain