百貨店

大理石の入口を抜けると、白い馬の彫刻が目に入った。前脚を上げたその姿は雄々しくて今にも駆けていくように見える。脚元には棚があって、いくつもの靴が照明を受けて輝いている。その棚の間を、婦人の方々が品定めをするように歩いて、スーツを着た女性が出迎えていた。そんな百貨店のありふれた様子をみて、子どもの頃を思い出した。

母親に手をつながれて百貨店を訪れる。その頃は、ヒャッカテンのテンは展覧会の展だと思っていた。馬や人の彫刻に噴水、シャンデリアと豪華な装飾のなかに子どもには用のない高級な品々が並んでいる。見上げる世界はどこまでも広くて、たくさんの人が商品を見ては次へ次へと動いていく。その様子は買い物というより、展覧会の雰囲気を楽しんでいるように見えたのだ。

百貨店の高級な品を買うことがない私は、まだ百貨展にいることに気付いた。馬は依然駆けだそうとしている。展覧会の目玉はなんだろうかと、しばらく会場を眺めていた。

 

 

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