花と涙と光

不意に涙が流れることがある。

悲しいこともなければ、痛みがあるわけでもない。初夏の兆候を感じた日の夕暮、横断歩道をわたり終えて淡い桃色の花弁を前にした時、世界が滲んでいた。街に溢れる光は小さな水玉に採集され、屈折して生命があるかのように閃いた。赤、白、黄、緑とたくさんの光が明滅していくつもの模様を見せた。まるで花を添えた万華鏡のようだった。

立ち止まった私を気に留めることなく、歩行者はどんどんと傍らを通りすぎていく。その一方、涙のしずくは大きくなっていく。零れ落ちる前に急いで人差し指をまなじりあわせた。視界は落ち着きを取り戻して、指の腹には光を詰めた水玉があった。

突然現れたその光の世界を、どうしようかとしばらく動けずにいた。

 

 

 

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