夜、かわべりに寝ころぶ。

芝生は柔らかくてゆっくりと身体を受け止めてくれているのがわかった。対岸には車道があって、小さな光がまばらに通りすぎていくのが見えた。空には雲が薄く広くたなびいて月明かりに透けていた。雲間からは澄んだ青い闇がのぞき、あたりに動くものはなかった。川の流れる音だけが聞こえた。

目を閉じると、真に黒い闇が訪れる。身体のなかに見あげていた夜空が流れこんできて、手足の指の先までゆっくりと満たしていく。時おり、月明かりの弱い光がきらきらと通り抜けていく。わたしという存在は夜をいれる容器になって、そのうち水を入れた壜が海に同化するように、闇に浸り、溶け込む。身体は元の大きさを失って、拡散され、夜そのものの大きさになる。

静けさのなかで、動いているものを感じる。それは小さく走る車や、ゆっくりと流れる川だ。そして、かわべりに寝ころんでいるわたしに気かつく。わたしの内にわたしはいて、わたしの外にわたしがいる。わたしという意識はその境界で遥か彼方を眺めている。そこで、わたしというものが消えて何もなくなる錯覚と快感を覚える。

息をゆっくりと吸いんで、目を開けた。そこには、きれいな夜空が広がっていた。

 

 

 

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