手水舎

「ちょうずや」

案内の手水舎という文字のふりがなを声に出してみた。目の前では石の水盤に竹筒から水が細くこぼれていた。よわく波打つ水面には新緑の葉が鮮やかに映りこんでいる。その上には竹が橋を架けていて、水盤との間に柄杓が二本置いてあった。境内はとても静かで、水と水とが出会う音だけが響いていた。

「水は地下から汲み上げています」

案内を読んで、地底の湖から少しずつ上昇する水の様を想像してみる。想像してみて、それは言葉を使う時のイメージと似ていることに気づいた。

暗く、静かな液体の溜まりにひとつ小さな桶をゆっくりと浸ける、僅かだけれどその重さを感じるとゆっくりと引き上げる。地上の明るみで光を透かして確かめると、もう一度桶を降ろす。こぼさないように慎重に、何度も掬う。そうやっていくらかの水や言葉を私たちは得ることが出来る。

取水舎の水はか弱く、途切れて雫になりながらも、確かに流れている。水の溜まりで柄杓を傾けると、その重みをゆっくりとこぼさないように口に運んだ。

 

 

 

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