観覧車

観覧車がまわっている。

観覧車は、遊園地にあるような大きなものではなくて、せいぜいビルの五階程度の高さですぐにでも頂上に着いてしまうように見える。鉄骨はペンキで黄緑に塗られていて、窓ガラスのないむき出しのゴンドラをゆっくりと軋るような音を出しながらまわしている。一度止めてしまったならば、もう動かなくなるのではないかと思えるほど古い。

乗客はおらず、鉄骨の下で受付のおじいさんが一人佇んでいる。人を乗せずにまわりつづける観覧車になぜか興味をひかれ、しばらく眺めていた。

観覧車は青空の底でもくもくと動いている。じっと見ていると、それはまるで見えない水(か何か)を送りつづける水車のように見えてきた。何をおくっているのだろう……たぶん、観覧車は、乗客の思い出をどこか高いところへ高いところへと送っているのだ。若い男女や親子、老夫婦とたくさんの人が見た景色とその時の思いを、おおきな時の流れに委ねて。

「足元に気をつけて」

二人の子と父親が、降りてきたゴンドラにゆっくりと乗りこんだ。

観覧車は新たな思いを乗せて、まわりはじめる。

 

 

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