蜘蛛の巣

蜘蛛の巣が明りに照らされていた。

巣は照明の筒の内に張りついていて、小さな網はたえず光をとらえていた。その中心で、蜘蛛は光に溺れるように、酔ったように揺れ動いていた。ふと、ある諺を思いついた。

「筒のなかの蜘蛛、世界を知らず」

蜘蛛は、ライトが照らす建物のことなど全く知らないだろし、筒の外から眺めているわたしのことも同様に知ることはない。けれど、蜘蛛にとっては筒のなかで世界は完結していて、端からどうこう言われる筋合いはないのだろうとも思った。

諺は自身にも跳ね返ってくる。蜘蛛の巣、という自らの世界のうちにある小さな世界だから全体を俯瞰できるのだけど、経験と教養に満ちた方がわたしを見れば、その狭量さを一笑に付すことになるだろう。そして、そのような方でさえも五感をこえた感覚を持つもの(天使や神様)がいたら、すぐそばで笑われているかもしれない。

諺にはつづきがあることをご存知だろうか。

「されど、空の深さを知る」

というもので、蜘蛛ならば、闇の深さを知ると言ったところだろうか。その言葉を自身に当てはめてみるのだけれど、そのつづきはなかなか出てこない。

わたしが持つ世界はありふれていて、小さいのだろう。けれど、なにかひとつ、溺れ、酔いしれることのできる深さを見つけたいと思った。

 

 

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