気まぐれに好きな詩を載せる 「婦人と雨」

婦人と雨

 

しとしとと降る雨の中を、かすかに匂つてゐる菜種のやうで、げにやさしくも濃やかな情緒がそこにはある。ああ婦人!婦人の側らに座ってゐるとき、私の思惟は湿ほひにぬれ、胸はなまめかしい香水の匂ひにひたる。げに婦人は生活の窓にふる雨のやうなものだ。そこに窓の硝子を距てて雨景をみる。けぶれる柳の情緒ある世界をみる。ああ婦人は空にふる雨の点点、しめやかな音楽のめろぢいのやうなものだ。我らをしていつも婦人に聴き惚らしめよ。かれらの実体に近よることなく、かれらの床しき匂ひとめろぢいに就いてのみ、いつも蜜のやうな情熱の思慕をなさしめよ。ああこの湿ひのある雨氣の中で、婦人らの濃やかな吐息をかんず。婦人は雨のようなものだ。