星の王子さまごっこ

星の王子さまごっこ”をご存知でしょうか。

ほとんどの人が、いやすべての人が “non” とこたえるだろうと思う。というのも、“星の王子さまごっこ”は『le petit prince』を常に持ち歩くほどサン=テグジュペリが好きな人、が教えてくれたささいな遊びだからだ。サン=テグジュペリの本を読んでいてふと思い出したので、その遊びについて書こうと思う。

星の王子さまごっこ”はとても簡単で、いつでも、どこでも出来る。凝った小道具や台詞の暗記などはいらない。ただ自分は星の王子さまだ、と思うだけでいい。

「自分は星の王子さまだ」と思うことは、つまり、いま、ここ、にある自分は“地球の外から来ている王子さま”にとっては仮のものであり、本当の生活は王子さまの星にある、という遊びだ。

「現実逃避と何が違うの?」と思うけれど、少し、違う。現実から遁走してはいない。王子さまとして、現実とは向き合っているのである。

例えば、雨上がりの澄んだ青空に虹が架かっていようと、買い物の帰りに自転車が撤去されていようと、“王子さま”として向き合うのである。

例えば、単位の修得に苦しむ学生であっても、片思いに身をよじる乙女であっても、子どもの乳歯の生えかわりにやきもきする親であっても、“王子さま”として目の前の世界を生きるのである。

極端な言い方をすれば、星の王子さまごっことは、私を向こう側からみること。つまり、宇宙の片隅に浮かぶ地球に滲んだ模様のように動く私を、はるか遠く火山の活きる小さな惑星から見るという遊び。

思い出してみれば、この遊びを教えてくれたあの人は、いつも超然としていて、まさに目に見えるものの向こうを見ているようだった。

もしかして、あの人は本当に“王子さま”で、この星にふらりと立ちよっただけなのかもしれない。